第5章 再び警告

□1995年7月12日 10時00分 エコール社内

全員が見守る中、CD−ROMライターのLEDが赤色から緑色に変わる。ゆっくりとトレイが開き、CD−ROMがイジェクトされる。
「ぱんぱんぱんぱんぱん」爆竹の音が社内に響き渡り、全員の拍手が響く。
「これで、マスターアップ。すべての要素を組み込み、何週間にもわたって難易度を調整して、ベストの状況にまで持ってきた。これで完成だ」
「ときどきフリーズする問題は、続きからコマンドを入れて、ユーザーの不利益をなくしましたし、細かくいろいろ対策が完成しましたね」
「マスターROMも焼けましたし、完全に完成ですね。おい、例のだるまを持って来い」矢野主任の指示で片目のだるまが開発室に置かれる。
「みんなのおかげで、デスクリムゾンが今日ここに完成した。おめでとう、ありがとう」
そういいながら、マナベが筆ペンで一気にダルマに目を入れる。
「完成おめでとう」改めて全員が拍手
「やっとこれで家に帰れますね。僕なんてもう1ヶ月も帰ってません」
「おまえはまだ恵まれた方だよ、俺なんてもう3ヶ月も風呂に入っていない」
「まだまだ、俺はこの半年間、ダンボールのベッド以外では寝ていないぞ」
「俺は、会社配給のラーメン以外、この1ヶ月食べていない」
それぞれが、制作中いかに大変だったか口々に叫ぶが、その顔は笑顔であふれ一仕事を終えた充実感で満ちている。

「まだ、夕方の4時だが、焼肉食べ放題、行くか―――」
「賛成です、10人前は食べるぞ」
「俺はビールを最低20杯は飲むぞ」
そう言いながら、山盛りの焼肉を次々と頬張るエコールの社員たち。

「思えば開発を始める前、出島設計事務所のシステムが完成した時は一人でフルーツバーベキューをやっていたが、あれが遠い昔のようだ。今はこうやってひとつの作品が完成した喜びを社員全員で祝うことが出来る。ゲーム開発って素晴らしいな」
「まさか、完成するとは思わなかったわぁ、途中資金不足とかで、こっそり知り合いから資金を借りて来たりとか、いろいろと大変だったんだからぁ」
「そうだな、ゲーム開発は、開発だけではなく、事務方の仕事も厳しいからな。ありがとう、赤阪専務、いろいろと協力してくれて」

「じゃあ、ビール掛け始めるぞ。レディー、ファイアー」
そう言いながら、ビールをお互いに掛け始めるエコールのスタッフたち。


□1995年7月13日 2時00分 エコール社内

「あっちだぁ、越前」
「行くぞ、ダニー、グレッグ」
「追い詰めたぞぉ、スナブリンを」
「スナブリンってなんだ、越前」
「スナブリンはデスビスノスのミツバチ、カルマをため、巣に持ち帰る」
「皆殺しにするぞ、スナブリンを。グレッグ、ボムファイアー用意、ダニー、照準をつけろ」
「あう、あう、きゃうん」スナブリンの追い詰められた声がする。
「よし、ボム発射」ぎゅおおおおおーとボムが発射される。
「今だ、ダニー、ロケット砲発射だぁ」
「弾が発射出来ん、越前、支援してくれ」
「包囲されたぞ」
「あと5秒耐えろ、グレッグ、俺が強行突破する」
「もう1秒しかもたん、急げ越前」
「ファイアー」
「ダブルファイアー」
「トリプルファイアー」
三人の放つ銃弾が、ボムを貫く。
辺りが一面火の海になり、爆風が包む。
「スナブリンを倒したぞ」

だが、画面にメッセージが表示される。
「オマエタチは、スナブリンをヤキコロシタな―――」
「ダニー、グレッグ、オマエたちフタリはクルシメテ、コロサズ」
「クルシメテ、コロサズ」
「クルシメテ、コロサズ」
「クルシメテ、コロサズ」
「クルシメテ、コロサズ」
「クルシメテ、コロサズ」
「79カイ、クルシメテ―――」
「そして殺す」


「ぐぐぐぐぐ、ぐぉ」喉をかきむしりながら苦しむマナベがソファで飛び起きる。
隣では、サワダ課長が同じように喉をかきむしりながら苦しんでいる。
「サワダ課長、大丈夫かぁ」うなされているサワダ課長に声を掛けるマナベ。
「えちぜーん、だめだ、それ以上撃ってはだめだ、それが破裂する」
「しっかりしろ、サワダ課長」そう言いながら顔に電気スタンドを近づけるマナベ。

「あ、社長、今、スナブリンを倒してしまいました。あれを撃ってはだめですよね社長」
「やっぱりそうか、サワダ課長。再び俺たちは同じ夢を見た、デスビスノスは79回苦しめて、そして殺すと宣言した」
「相当ひどい殺され方をするんですね、これからどうしましょうか」
「そのためにも、越前を先に探し出さなければならない。そしてそのための最も効果的な方法である、ゲームを作る作戦、それは昨晩完成した」
「そうですね、ビビることはないですね。すべての作戦は順調に進んでいるんですから」